新連載 飯田哲也「バッテリー・ディケイド」
2025.02.28 コラム トピックス第1回 蓄電池6倍増目標
日本でも系統蓄電池市場が熱い。今の蓄電池は、10年前の太陽光発電の状況に似ていると感じる。市場拡大が技術革新とコスト低下を促し、それらがポジティブ・フィードバックでさらなる市場拡大へと繋がった構図がまったく同じで、ちょうど離陸期から本格導入に移行しつつある状況が、かつての太陽光発電市場の黎明期を思い起こす。蓄電池の主力市場である電気自動車(EV)市場も本格普及期に入り、定置型蓄電池のコスト低下をもたらしている。太陽光発電がこの10年間に辿ってきたように、これからの蓄電池は飛躍的な成長が見込まれる。
本連載では、これを「バッテリー・ディケイド」(蓄電池の10年)と呼び、EVを含む蓄電池とその周辺にある領域の歴史や技術、資源、地政学、市場などの幅広いトピックスを取り上げて、解説してゆく。なお、本稿では特に明記しない場合、蓄電池(バッテリー)はリチウムイオンを指す。
昨年末にアゼルバイジャンで開催された気候サミットCOP29では、再生可能エネルギーの普及をさらに加速させるために、世界の定置型蓄電池の容量を2030年までに6倍の1.5 TW(2022年比)に高める目標が合意された※1。バッテリー・ディケイド時代の幕明けに相応しい目標といえよう。
蓄電池市場としては、EV用途が9割を占める。近年の急速なEV市場の拡大によって、コストが急激に下がってきたことが、電力市場用の定置型蓄電池の市場拡大の要因の一つとなっている(図1)。
図1 蓄電池コストの低下(リチウムイオン)
【出典】BloombergNEF, December 10, 2024
電力市場用の定置型蓄電池で6倍増1.5 TWは、容量にして4〜6 TWhに及ぶ。EVを含む蓄電池市場全体で言えば、15〜30 TWh市場規模に匹敵する。国際エネルギー機関(IEA)はEVを含めて2030年に6 TWhと予測し、そのうち定置型蓄電池は0.5 TWhと予測しており※2、その10倍規模の目標となり、かなり野心的だ。ただし蓄電池は、太陽光発電と同じように典型的な破壊的変化もしくはS字曲線による市場拡大の特徴を示しており、IEAの控えめな予測を絶えず上回ってきた歴史がある(別回で解説予定)。
また、政策・市場・技術面で電力市場での定置型蓄電池の利用環境が整ってきたことももう一つの大きな要因だろう。2017年12月にテスラが南オーストラリア州に導入した世界初の大型系統蓄電池(ホーンズデール)がその歴史的なエポックである(図2)。さらにその後、その大型系統蓄電池は、世界で初めて疑似慣性を提供するという2度目の歴史的なエポックを引き起こした(別回で解説予定)。
図2 世界初の大型系統蓄電池(ホーンズデール)
(出典) Consolidated Power Projects Australia Pty Ltd (CPP)
あらためて整理すると、電力市場用の定置型蓄電池の設置場所は、大きく2とおりがある(図3)。電力メータの内側(BTM, Behind The Meter)と手前側(FTM, Front The Meter)である。一般的にこの場合の「メータ」は需要側を意味し、BTMと言えば家庭や事業所内に設置される蓄電池を指す。多くの場合は太陽光発電とともに設置され、太陽光発電の自家消費を最大化する。アグリゲータや電力小売会社と契約してデマンド・リスポンス(DR)や仮想発電所(VPP)に用いられることも期待されている。同じように、FTMとはいわゆる系統蓄電池であり、上述の南オーストラリア州のホーンズデールが嚆矢(こうし)であり、世界的にも日本でも急増している蓄電池の利用方法である。
ただし、上流側(発電側)でも太陽光発電や風力発電所の送電メータの内側に置かれる蓄電池もBTMともいえるだろう。太陽光発電や風力発電が需給調整可能な発電所とすることができ、「24時間発電できる」という意味から「RTC(Round The Clock)発電所」とも呼ばれる。インド・ラジャスタン州、マハラシュトラ州、カルナタカ州で合計1.3GWの太陽光と風力に100MWhの蓄電池が設置された参考事例である※3。日本では北海道北部風力発電が上流側(発電側)のBTMであり、九州などを中心に蓄電池併設によるFITからFIPへの転用も同様である。事例は少ないが、下流側(需要側)でもFTMがあり、コミュニティ蓄電池と呼ばれ、オーストラリアなどに事例がある※4。
図3 電力市場用の定置型蓄電池の設置場所の区分
(出典) Pieter D’haen, 17 JULY 2023, ‘Understanding “Behind the Meter” and “In Front of the Meter” in the Utilities Sector: A Comprehensive Overview’. SSE Energy Solutions
次回以降は、バッテリー・ディケイド時代に知るべき「新しい蓄電池の教養」を眺めながら解説してゆく。
※1 COP29 Global Energy Storage and Grids Pledge
https://cop29.az/en/pages/cop29-global-energy-storage-and-grids-pledge
※2 IEA Apr.19th, 2024 “Annual battery demand by application and scenario, 2023 and 2030”
https://cop29.az/en/pages/cop29-global-energy-storage-and-grids-pledge
※3 インドのRTCプロジェクト
https://home.cib.natixis.com/articles/renew-power-s-award-winning-round-the-clock-project-in-india
※4 The Government of South Australia, “community batteries at Magill and Edwardstown”
https://www.energymining.sa.gov.au/consumers/solar-and-batteries/community-batteries